最近、20代、30代のいわゆる若手〜中堅医師で今後のキャリア形成への不安を話す人が増えてきています。
実際に医師の求人でも、いままではベテラン勢の応募が多かったのに、最近は20-30代の若い医師の転職相談が増えてきているという話も聞きました。
医師の過重労働のほかに技術革新、人口減少など不確定な未来に対する不安も大きく関係しているのではないかと私は考えています。
一方で最近開業ではなく「起業」する医師が増えているのはご存知でしょうか?「起業家医師」とか「アントレドクター」ともいわれています。
私の周りにもそのような医師が増えています。
開業や病院勤務といった診療行為を行う従来の医師としての姿だけでなく、医療に関連する隠れたニーズや諸問題を見つけ、医師や医療従事者同士での知識やスキルの共有、病院以外での医療・ヘルスケアの情報やサービス提供などを行うため、自分で会社を起こして事業を始める医師がいま増加しています。
いわゆるベンチャーとかスタートアップといわれる形態ですね。
オススメ本「医療4.0」!!
起業に関連した内容が書かれているのが「医療4.0」という本です!
●起業って具体的にどんなことをしているんだろう?
●自分もやってみたいと思っている
●何かやってみたいけど、まだ見つかっていない
●将来のキャリアに対して行き詰まりを感じる
といった医師には特にオススメです。
著者の加藤浩晃医師とは?
私のような凡医とは知り合いではないので、、、ネットで調べた限りでは眼科専門医の医師で、臨床現場にも立つ一方でAIやIOTといったヘルスケアビジネスを推進を行っている先生のようです。起業家医師の間では特に有名な先生みたいですね。
厚労省や経産省でのベンチャー/スタートアップ支援や大学や企業のアドバイザーなども勤めているようです。(凡医の私からすると、いつ寝るんだろうという素朴な疑問が浮かんでくるほど多くの仕事を手掛けているんですね…)
どんな内容?
第3章 未来を描く医師30人による展望
そして第3章に起業家医師を含む30名の医師のインタビュー記事が書かれています。
本自体のページ数は多くなく(265ページ)、1章、2章は今の日本の医療が直面している課題や医療テクノロジーの話が短くも分かりやすく載っており、今と今後の医師の世界を考えるうえでもとても参考になると思います。3章はインタビュー形式になっているのでサクッと読めてしまいます。
第1章 日本の医療における変化と課題について~
日本の高齢化・人口減少、増加する社会保障費、疾患構造の変化などといった日本医療の課題についてグラフを用いて説明してあります。
第2章 医療とテクノロジーの現状と展望について~
現在進行形の第4次産業革命中の医療の進歩を”「医療4.0」”と位置付け、新しい医療テクノロジーとそれによってどういった変化が起こるかを具体例を交えながら説明されています。
作中で紹介されていたもので「近未来SF時代到来か!?」と思ってしまった技術に「BMI」があります。
近年登場してきたのが、脳と機械を直接つなげるBMI(ブレーン・マシーン・インターフェース)という領域です。
次世代の情報の入力手段となり、言語に代わるコミュニケーションツールになる可能性があります。
医療においては”脊髄損傷の患者の意思伝達、運動機能の補完”を目的とした開発もあるようですが、医療以外でも「遠方の相手が感じている感覚共有」、「他人の考えや感情の直接的な伝達」など今まで人間が経験したことのないようなテクノロジーが生み出されつつあるようです。
感情の伝達ができるレベルにまで実用化したら愛想笑いとかできなくなりそうですね…
本作ではBMI以外にも「5G」や「オンライン診療」「ウェアラブルデバイス」など今日では聞き慣れてきたテクノロジーについても分かりやすく要点を述べてあります。
本章で感じたことは新しいテクノロジーを知ることができるということだけでなく、そのテクノロジーを活用したサービスがどんどん拡大しているということです。
つまりはこういったサービスが乱立してきていて、自分にとって必要なサービスが在るのか無いのかすら分からなくなりそうで逆に不便になってしまわないかという疑問があります。
例えば、今までは「自分が乗りたい日本車といえば〇〇社の車!」と決めることが比較的容易だったけど、これからは分野とサービスが細分化してきて自分で積極的に情報を獲得しにいかないと、便利なサービスがあることにすら気が付かないまま時間を削り、一人で頑張って徒労に終わることが増えそうだなと感じました。
多すぎる選択肢の中から自分にとっての最適解を選ぶのは大変です。
出来たら誰かがこういった新しい医療サービスを評価・紹介するようなプラットフォームを作ってくれたらいいんだけどと思いました…
第3章 未来を描く医師30人による展望について~
ページ数としてはこの本の大部分を占める章となっています。
30人もの起業あるいはそれに関連している医師にインタビューするのは滅茶苦茶大変だったんじゃないかと勝手にその苦労を想像しております。。。そしてその人脈の広さもすごいなと感じました。
1医師につきだいたい5-6ページとなっているので、1個1個の内容は重くありません。しかもインタビュー形式なのであっという間に読めちゃいます。
中でも個人的になるほどな~と思ったのが、小児科医の白岡亮平医師の
実際に生活習慣病を発症している年齢層は既にライフスタイルが確立されており、その時点から生活のスタイルを変えるという行動変容につなげるのは非常に難しいことです。
もっと効率良く、効果的なアプローチがあるのではないかと私は考えています。
それは生活スタイルが確立する前の、子供たちへのアプローチです。
という話です。「確かにな…。」と思いました。習慣を変えるのって本当に難しいですもんね。
他人から「それは不健康な行為だ」と指摘されると図星なだけに「ほっといてくれ!もうこれで生きてきたんだから!」といってそっぽ向かれるor向いてしまうことって多いですよね。
けれども生活習慣病に対する予防医療は「大人」に対して行動変容を求めていることが多いのが現状です。すでに世の中にも浸透してきている「禁煙外来」もそのなかの一つですよね。
本作第1章では疾患構造が生活習慣病による死亡が多くを占めており、増加し続けていること、”「平均寿命」と「健康寿命」に約10年の差がある”ことが述べれられており、今後は”健康寿命の延伸”が課題とされているようです。
こういった点を踏まえると、まだ生活習慣が大人ほど確立されていない小児期から介入する方が、長い目で見て効果が高そうですよね。健康教育がいつか義務化される日が来るかもしれません。
育児をしていると、育児情報は「ピンキリ」かつ「多すぎ」てまだ体系的にまとまっていないものが多すぎます。また、親が子供にできる健康管理だと公園に連れて行って運動させたりとか、頑張って栄養ある献立を考えるくらいしかできないので、子供の健康管理について統合したサービスが出来てくれるのは親としてもありがたいです。
3章では30人もの医師がいま行っている新しい医療サービスや今後の医療の展望について述べており、どの先生も未来を見据えながらチャレンジされているのだなあと感じました。
一方でインタビューされた医師が多い分、1医師に対するページ数が少ないため深く理解するのは難しかったです。また、考え方や展望などは述べられているものの、詳しい事業名や医療品名が述べられていないインタビューもあり、そういうところについてはあまり印象に残りませんでした(すみません)。
次は作中でもインタビューされている会社についても一部紹介していきます。
医師が起業した会社はどういった内容なの?
例えば作中にも出てくる中山先生が起業した「antaa」ですが、先生は病院を超えて医師同士で相談できるネットワーク「antaa QA」を作りました。
救急外来では自分の専門分野以外の診察をすることがあります(むしろ専門外のことのほうが多いと思います。)
専門外の重大な疾患を診断できる自信があるかと言ったら、長年救急診療をやっていなければ難しいと思います。
そんなとき、医師自身が専門家に相談できたらとても心強いわけです。
日本全国には約33万人(2018年時点 ”厚生労働省医師・歯科医師・薬剤師統計”より)の医師がいます。
初期または後期研修後であれば多くの場合はそれぞれ何かしらの「専門分野」を持っています。
さらに、医学が急速に進歩するのにあいまって、専門分野はどんどん細分化されています。これにより専門医1人がもつ医療の知識は昔よりも専門的で、深いものになってきています。
このため、ある疾患・分野についての専門の医師と非専門の医師の間には大なり小なりの情報格差が存在しています。
こうした”医師間の情報格差の是正”を行うために様々な専門を持つ医師同士をネットでつないで医師同士でも助け合い、医療の質を上げる。これを行っているのが「antaa QA」です。
いままでは患者さんを支えるサポートやネットワークは重視され構築が進んできましたが、医師そのものを支えるネットワークって決して多くは無かったんですよね。
従来の診療行為「だけ」が医療を支えるあるいは牽引するやり方ではないと私も思うので、病院以外でもできる医師の社会貢献としてこういった事業を始める医師は今後も増えていくと思っています。
本全体の感想
今回は医師が書いた新たな医療フェーズについて書かれた「医療4.0」について紹介させていただきました。
課題山積状態の日本の医療ですが、そこにニーズや必要性をみつけて取り組んでいっている先生方の話を見ると、私も専門以外のことについても学ばないとなと考えさせられました。
ネット上のほかのレビューでは本書の内容の濃さについて賛否あるようですが、医療の未来を考えるきっかけとなる本にはなるのではないかと思います。
次ページでは番外編として「医師の起業を支援するサポーター」についても紹介していきます。